敷金精算書の書き方と記載項目|入居者トラブルを防ぐ根拠と写真の添え方
退去後の敷金精算で入居者さまとのやり取りが長引く原因の多くは、金額そのものより「なぜこの金額なのか」が精算書から読み取れないことです。国土交通省ガイドラインの別表4「原状回復の精算明細等に関する様式(例)」をもとに、記載項目と、根拠・写真の添え方を整理します。
1敷金と精算の基本(民法622条の2)
2020年4月1日施行の改正民法では、敷金のルールが第622条の2で明文化されました。要点は次のとおりです。
- 敷金とは、名目を問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。
- 賃貸人は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときなどに、受け取った敷金から賃借人の金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
原状回復費用のうち借主負担となる額は、この「控除」の対象となる代表的なものです。何をいくら控除したのかを明細として示すのが、敷金精算書の役割です。借主負担の考え方そのものは原状回復ガイドラインの要点と負担区分で解説しています。
2精算書の記載項目
ガイドライン別表4の様式(例)では、物件・当事者の情報と、対象箇所ごとの「単価・単位・量・金額」「経過年数」「賃貸人の負担(割合・金額)」「賃借人の負担(割合・金額)」を記入する形になっています。実務ではこれに、区分の理由や写真番号を加えると伝わりやすくなります。
| ブロック | 記載項目 | ポイント |
|---|---|---|
| 基本情報 | 物件名、住戸番号、所在地、借主氏名、貸主氏名、契約日、入居日、退去日、転居先の連絡先 | 入居日・退去日は経過年数の計算根拠になる |
| 明細(行ごと) | 対象箇所、修繕等の内容(洗浄・補修・張替・交換など)、単価、単位、量、金額 | 場所と部位を具体的に(例:洋室 西面 クロス) |
| 負担の区分 | 貸主/借主の別、その理由(通常損耗・故意過失・手入れ不足など) | ガイドライン別表1の区分と対応させる |
| 経過年数 | 耐用年数、経過年数(または入居年数)、残存割合 | 考慮しない部位はその旨を記載 |
| 負担額 | 賃貸人の負担(割合・金額)、賃借人の負担(割合・金額) | 割合×金額の計算が追えるように |
| 精算金額 | 預り敷金、借主負担合計、その他控除(未払賃料等)、返還額または不足額 | 税込・税別の別を明記 |
| 根拠資料 | 写真番号、見積書、契約書の該当条項(特約) | 行ごとに写真番号を振ると照合しやすい |
別表4の様式(例)の項目に、実務で加えると有効な項目(理由・写真番号・根拠資料)を追加して整理。
3敷金精算書の見本
記載イメージを示します(金額・単価は説明用の架空の例です)。入居直前にクロスを張り替えた物件で、入居3年で退去したケースとします。
| No. | 対象箇所・内容 | 区分・理由 | 金額 | 経過年数 | 借主負担 | 貸主負担 | 写真 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 洋室 西面 クロス張替 1,000円×12㎡ | 借主 落書き(故意による毀損)。毀損箇所を含む一面分 | 12,000円 | 耐用6年・経過3年 残存50% | 6,000円 | 6,000円 | P-01〜03 |
| 2 | 洋室 フローリング部分補修 15,000円×1箇所 | 借主 引越作業によるひっかきキズ | 15,000円 | 考慮しない(部分補修) | 15,000円 | 0円 | P-04〜05 |
| 3 | 玄関 鍵シリンダー交換 18,000円×1式 | 借主 鍵1本の紛失(返却本数2/3本) | 18,000円 | 考慮しない(紛失) | 18,000円 | 0円 | P-06 |
| 4 | ハウスクリーニング 30,000円×1式 | 借主 契約書 特約第○条(退去時クリーニング費用・定額) | 30,000円 | 考慮しない | 30,000円 | 0円 | 契約書写し |
| 5 | 居室 クロス張替 1,000円×30㎡ | 貸主 日照による変色・画鋲穴(通常損耗) | 30,000円 | ― | 0円 | 30,000円 | P-07〜08 |
| 合計 | 105,000円 | 69,000円 | 36,000円 | ||||
| 預り敷金 | 100,000円 | ||||||
| 差引 返還額(100,000円 − 69,000円) | 31,000円 | ||||||
金額はすべて税込の想定。未払賃料など原状回復以外の控除がある場合は、別行で明記します。
ポイントは、借主負担の行だけでなく貸主負担の行も載せることです。「通常損耗は貸主負担として扱っている」ことが見えると、精算全体の公平さが伝わり、個別の行への疑問に集中して回答できます。
4トラブルを防ぐ根拠の示し方
区分と理由を行ごとに書く
「クロス張替 一式」だけでは、入居者さまは通常損耗との違いを判断できません。「落書き(故意による毀損)」「結露を放置したことによるカビの拡大」のように、ガイドライン別表1の事例と対応する言葉で理由を書くと、説明の筋道が明確になります。
経過年数と負担割合の計算過程
別表4の様式には経過年数と負担割合の欄があり、耐用年数から算出した借主負担割合を考慮して金額を記入するとされています。「耐用6年・経過3年・残存50%」のように計算過程を残すと、借主さまが自分で検算できます。計算方法は耐用年数と経過年数の計算方法を参照してください。
写真の添え方
ガイドラインは、損耗の箇所や程度を平面図に記入したり写真を撮ったりするなど、視覚的な手段を併用することが重要としています。写真は後日の証拠資料にもなりえます。精算書に添える写真は次の点を意識しましょう。
- 全景と近景をセットで:どの部屋のどの面かが分かる全景と、損耗の状態が分かる近景を並べる。
- 大きさが分かるように:メジャーや定規を添えて撮る。
- 入居時の写真と並べる:同じアングルの入居時写真があれば、「入居後に生じた損傷」であることが伝わりやすい。
- 撮影日と写真番号:明細の行と写真番号を対応させ、撮影日を記録する。
特約の示し方
退去時クリーニング費用の定額負担など、通常の原状回復義務を超える負担を特約で定めている場合は、契約書の条項番号と文言、契約時の説明の記録をあわせて示します。ガイドラインは、こうした特約について①客観的・合理的理由、②借主の認識、③借主の意思表示の3要件を挙げ、単価等を明示しておくことが紛争防止に欠かせないとしています。
5送付から合意までの流れ
ガイドラインは原状回復の費用算定の手順として、物件の状況確認→借主の負担割合の検討→経過年数の考慮の確定→見積費用の確認・連絡→見積費用の合意→精算、という流れを示しています。実務では次のように進めるとスムーズです。
- 立会い記録と写真を整理退去立会いで記録した損耗箇所と写真を、明細の行と対応づけます。
- 見積を取り、負担区分と割合を確定業者見積をもとに、行ごとの区分・経過年数・負担割合を確定します。
- 精算書(案)を送付して説明写真・見積書・特約の条項を添えて送付し、問い合わせ窓口と回答期限を案内します。
- 合意内容を記録して精算合意(署名等)を記録したうえで、返還または不足分の請求を行います。
6よくある問い合わせと対応
| 入居者さまの声 | 確認すること | 精算書での示し方 |
|---|---|---|
| 「全額を請求されている」 | 経過年数を考慮する部位か | 耐用年数・経過年数・残存割合を行ごとに記載 |
| 「部屋全体の張替えは納得できない」 | 負担単位(クロスは毀損箇所を含む一面分まで) | 対象面と面積を明記し、残りは貸主負担の行に |
| 「最初からあった傷だ」 | 入居時チェックリスト・写真の有無 | 入居時写真と退去時写真を並べて添付 |
| 「クリーニング代は払う必要がないのでは」 | 通常の清掃の実施状況、特約の有無と内容 | 特約の条項番号・文言と、契約時の説明記録 |
| 「単価が高いのでは」 | 見積の内訳、契約時に示した単価 | 見積書を添付し、単価・数量を明細に記載 |
- 精算書は、ガイドライン別表4の様式(単価・量・経過年数・負担割合)をベースに作る。
- 行ごとに「区分と理由」「経過年数の計算過程」「写真番号」を書くと、検算・照合がしやすい。
- 貸主負担の行も載せ、通常損耗を貸主負担として扱っていることを見せる。
- 特約に基づく請求は、条項と契約時の説明記録をセットで示す。
ヘヤログならこう楽になる
立会いの記録から敷金精算書まで、スマホ1台で。
賃貸管理会社向けの退去立会い・原状回復・敷金精算クラウド「ヘヤログ」は、この記事で紹介した作業をまとめて効率化します。
- 部屋・部位ごとに写真とメモを記録(電波の届かない部屋でも記録できます)
- 国交省ガイドラインの考え方に沿って、AIが負担区分の候補と理由を提案(最終判断は担当者)
- 耐用年数・経過年数を反映した負担額を自動計算し、写真と根拠付きの精算書を作成
現場で使える「退去立会いチェックリスト(PDF)」と「敷金精算書テンプレート(Excel)」を無料でダウンロードできます。
出典・参考
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html - 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」本文(PDF・平成23年8月)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf - e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
※本文中のガイドラインのページ番号は、上記PDF(再改訂版)の本文ページ表記です。