耐用年数と経過年数の考え方|借主負担額の計算方法と計算例

公開日:更新日:ヘヤログ編集部(株式会社ESONE)

借主の故意・過失でクロスを汚した場合でも、張替え費用の全額が借主負担になるとは限りません。国土交通省のガイドラインでは、部位や設備の「経過年数」を考慮して借主の負担割合を減らす考え方が採られています。耐用年数・残存価値1円・入居時点の価値の扱いを、計算例とあわせて整理します。

1なぜ経過年数を考慮するのか

ガイドラインは、借主に原状回復義務がある場合(区分B・A(+B))でも、修繕費用の全額を借主が当然に負担することにはならないとしています。理由は大きく2つです。

そこで、建物や設備等の経過年数が多いほど借主の負担割合を減少させる、というのがガイドラインの考え方です。

2残存価値1円と負担割合のグラフ

経過年数による減価割合は、法人税法等における減価償却資産の考え方と「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」を参考にしています。以前は耐用年数経過後の残存価値を10%としていましたが、平成19年の税制改正で残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、再改訂版では耐用年数で残存価値1円となる直線(または曲線)を描いて借主の負担を決めるとしています。

耐用年数6年の場合の借主負担割合の推移 新品で入居した場合は経過0年で100%、6年で残存価値1円(ほぼ0%)まで直線的に下がる。入居時点ですでに3年経過していた場合は、入居時50%から始まり、入居3年で残存価値1円に達する。 100%75%50%25%0% 012345678 入居からの年数(年) 新品で入居(3年で50%) 入居時に3年経過(入居時50%) 残存価値1円
耐用年数6年・定額法の場合の借主負担割合(原状回復義務がある場合)。ガイドライン本文の図3・図4の考え方を、ヘヤログ編集部が図示したものです。

たとえば耐用年数6年のカーペットやクロスなら、新品から3年経過時点の負担割合はおよそ50%、6年経過時点で残存価値1円(実質的にほぼゼロ)となります。

3主な部位・設備の耐用年数

ガイドライン別表2に示されている主なものは次のとおりです。

耐用年数主な部位・設備
5年流し台
6年壁(クロス)、カーペット、クッションフロア、畳床/冷房用・暖房用機器(エアコン、ルームクーラー、ストーブ等)、電気冷蔵庫、ガス機器(ガスレンジ)、インターホン
8年主として金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶ダンス)
15年便器、洗面台等の給排水・衛生設備/主として金属製の器具・備品
建物の耐用年数ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの)/フローリング全体にわたる毀損で全体を張り替えた場合

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)別表2(P.22〜24)。設備機器は新品交換の場合も同じ考え方です。

4入居年数による代替と「入居時点の価値」

厳密な経過年数は「その部位を新しくしてから何年か」ですが、設備ごとの交換履歴を貸主や管理会社が完全に把握していることは少なく、入居時に経過年数を示されても借主は確認できません。そこでガイドラインは、経過年数のグラフを入居年数で代替する方式を採用しています。

ただし、入居時点の設備等は必ずしも価値100%ではありません。その場合は、入居時点の状況に合わせてグラフの出発点を下げて使います(上の図の破線)。

出発点をどこにするかは、契約当事者が確認のうえ、あらかじめ協議して決定することが適当とされています。入居時のチェックリストに「交換年月」を記録しておくと、退去時の説明がスムーズになります。

5経過年数を考慮しないもの

部位理由・扱い
フローリング(部分補修)部分補修をしても全体の価値が高まるわけではない(つぎはぎの状態)ため、部分補修費用は借主負担。全体を張り替えた場合は建物の耐用年数で考慮
畳表、襖紙・障子紙消耗品としての性格が強く、減価償却資産の考え方になじまない
襖・障子等の建具部分、柱経過年数は考慮しない(考慮する場合は建物の耐用年数)
鍵(紛失)交換費用相当分を全額借主負担
クリーニング通常の清掃を実施していない場合に、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を借主負担

6借主負担額の計算式と計算例

定額法(直線)で考える場合、借主負担額は次の式で求められます。

借主負担額 = 補修費用 × 残存割合
残存割合 = 1 −(経過年数 ÷ 耐用年数)経過年数 = 入居時点ですでに経過していた年数 + 入居から退去までの年数。耐用年数を過ぎた場合は残存価値1円が下限。

以下の計算例は、説明のため年数を整数で計算しています(金額は円未満四捨五入)。

計算例1:クロス(新品で入居、3年で退去)

借主の過失による汚損で、毀損箇所を含む一面分の張替え費用が60,000円。入居直前に張り替えており、入居3年で退去。

残存割合 = 1 − 3 ÷ 6 = 0.5(50%)

借主負担 60,000円 × 50% = 30,000円/貸主負担 30,000円

計算例2:カーペット(入居時点ですでに2年経過、3年で退去)

借主がこぼした飲み物の手入れを怠りシミ・カビが拡大(A(+B))。張替え費用80,000円。カーペットは入居の2年前に敷いたもので、入居時点の価値は約67%と当事者で確認済み。入居3年で退去。

経過年数 = 2年 + 3年 = 5年、残存割合 = 1 − 5 ÷ 6 ≒ 0.1667(約16.7%)

借主負担 80,000円 × 1/6 ≒ 13,333円/貸主負担 66,667円

計算例3:洗面台(耐用年数15年、6年で退去)

借主の用法違反で洗面台が破損し、交換費用120,000円。洗面台は入居直前に新品を設置、入居6年で退去。

残存割合 = 1 − 6 ÷ 15 = 0.6(60%)

借主負担 120,000円 × 60% = 72,000円/貸主負担 48,000円

なお、同じ案件でフローリングの引越しキズを部分補修(15,000円)した場合は、経過年数を考慮しないため15,000円がそのまま借主負担の検討対象になります。

無料:耐用年数・借主負担額 計算ツール部位を選んで入居日・退去日・補修費を入れると、残存割合と借主・貸主の負担額を試算できます。

7耐用年数を過ぎても負担が生じる場合

耐用年数を超えた設備等でも、借主は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っています。ガイドラインは、耐用年数を超えた設備等でも継続して使用可能な場合があり、借主が故意・過失で破損して使用不能にした場合には、本来機能していた状態まで戻す費用が借主負担となることがある、としています。例として、借主がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)が挙げられています。

8実務での注意点

この記事の要点
  • 借主負担の項目でも、経過年数が多いほど負担割合を減らすのがガイドラインの考え方。
  • クロス・カーペット・クッションフロアは6年、流し台5年、便器・洗面台等は15年で残存価値1円。
  • 入居年数で代替し、入居時点の価値が100%でなければグラフの出発点を下げる(当事者で事前に協議)。
  • フローリングの部分補修、畳表、襖紙・障子紙、鍵の紛失、クリーニングは経過年数を考慮しない。
  • 耐用年数を過ぎても、故意の落書きを消す費用などは借主負担となることがある。
ご注意:本記事は国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」等をもとにした一般的な解説で、法律相談や個別案件への助言ではありません。ガイドラインは一般的な基準を示したもので法的拘束力はなく、最終的な負担区分は契約内容(特約を含む)や物件の使用状況などの個別事情により異なります。判断と入居者さまへの説明は管理会社さまの責任で行い、判断に迷う案件は弁護士等の専門家にご相談ください。

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出典・参考

※本文中のガイドラインのページ番号は、上記PDF(再改訂版)の本文ページ表記です。